第1回 愛しの塩

忖度なきおすすめ

仕事柄、これまでに実に多くのものについて紹介文を書いてきました。その対象は物だけでなく、店、人、場所など多岐に及びます。そして、その70%に忖度(そんたく)が存在しました。私は評論家や小説家ではなく編集者なので、必要とされるのは客観的な情報や事実であり、主観は邪魔者扱いされます。それでも忖度は存在します。

忖度の相手は取材相手であったり、スポンサーだったり、会社の上司だったりします。「貴重な時間を使って取材させてもらったんだから、悪いことは書きづらいな」「次の広告をもらうためには、この商品は少し持ち上げとくか」「ここで少し煽っておかないと、編集長に〝企画が盛り上がってない!〟って言われそうだな」。そんな感じです。読者の方たちは、そんなことは百も承知で、その分は差し引いて読まれていることも分かってはいましたが、それでも〝提灯記事〟を書くことに虚しさを感じる時がありました。

そんなストレスを解消することも「九州の食卓」を創刊する目的の一つでした。事前のリサーチを徹底して、本当に紹介したい物や人しか取材しない。幸か不幸か(本当は雑誌にとっては不幸なのですが)、広告はあまり入らなかったのでスポンサーに気を使うこともない。忖度が存在しない30%は、ここに存在しました。こうした取材は充実感があり、わくわくし、清々しさも感じるものでした。編集者冥利に尽きる、幸せな時間でした。

誌面で紹介した商品の素晴らしさを実感していただきたくて、購入いただける通販サイトや店舗も作りました。その商品の中から、このコーナーの第1回目の商品をセレクトするのはいかがなものかとも思いましたが、「いいものはいい、勧めたいものは勧めたい」と割り切ることにしました。読んでいただく方への忖度も、ここでは外させていただきます。

どうしてもご紹介したかったのは「塩」です。五島列島の塩です。上五島島に住む小野敬さんが作る釜炊き塩です。

最初に取材したのは2012年のこと。美味しい塩だったし、小野さんの人柄や生き方にも共感する部分が多く、以来、商品の取り扱いもさせてもらうことになりました。でも、本当に意味で〝おすすめモード〟に火がついたのは、ランチの調理で毎日この塩を使うようになってからのことです。

味がピタッと決まるのです。味のバランスをとってくれるのです。少なくとも、私の好きな味になってくれるのです。この点に関しては好みもあるでしょうから、絶対的評価ではありませんが、私は猛烈におすすめしたいです。

塩を変えると料理が変わります。これは間違いありません。嘘だと思う方は、ぜひ試してみてください。

声援風景。2012年当時の写真です。古くてすみません
こんな感じの方です
和食だけでなく、洋食や中華なども含め、塩を使わない料理はありません

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