第3章 できるだけ手作りする

食べて幸せになる

 雑誌「九州の食卓」を編集する上で、一貫したテーマがありました。それは〝できるだけ手作り〟というものです。

 出来合いのものより、手作りの方がいいのは決まっています(よね?)。でも、あまり手作り至上主義を高らかに謳われると、気分が萎えてきます。手作りできていないことに罪悪感が生まれます。これでは、せっかくの食事もつまらないものになってしまします。

 だから、〝できる範囲で、できることを〟という提案です。できる範囲も、できることも人によって様々。そこに一つの物差しを押し付けるのは傲慢な気がしていました。手作りはあくまで手段です。目的は、楽しく、おいしく食事をすること。無理に手作りすることで苦しくなったり、手作りできないことにストレスを感じるようでは本末転倒です。

 出来合いのお惣菜や冷凍食品、デリバリーを上手に使いこなすのも、忙しい人にとっては賢明な選択かもしれません。そんな人は、週に一日だけ手作りの日を制定してみる。そんなことから始めてみてはいかがでしょうか。そのうち、手作りの楽しさに気づくはずです。その際のポイントは、絶対無理をしないこと。

 手作りをしていると、いろいろな気づきがあります。食材のこと、調味料のこと、同じ料理でも個性豊かなレシピが存在すること。温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに、麺はのびないうちに食べて欲しいと心から思うこと。料理は化学ですから、おいしさの方程式が理解できてくると、ますます面白くなってきます。それが食べてくれる人に評価されると、天にも昇りたい気持ちになります。そうして、手作りの頻度が高まっていきます。

 気づきという点では、こんなこともあります。

 九州の食卓では、「できるだけ手作り」というテーマのワークショップも定期的に行っていました。これは、どの家庭にも必ずある、でもスーパーで買ってくるのが当たり前のものを手作りしてみようという企画です。定番の味噌作りに始まり、柚子胡椒、豆腐、ケチャップなどにチャレンジしました。中でも反応が大きかったのが「マヨネーズ」です。

 手作りしてみて、最初に気づくのがシンプルな原材料。酢、卵、油、塩です。これらをホイッパーで根気よく混ぜ続けるか、ハンドブレンダーで一気に乳化させるとマヨネーズが誕生します。

 次にみなさんが驚くのが、油の量です。

「こんなに入れるんですか!」
「マヨネーズって、ほとんど油じゃん!」

 そうなのです。作ってみて初めて知るその正体。でも、マヨネーズは偉大です。ポテトサラダもタルタルソースも、サンドイッチもマヨネーズなしでは語れません。ただ、知ると使う量が少し減ります。あるいは、使い方が少し変わります。それが気づきです。

 九州の食卓のカフェで提供していたメニューに、「豆腐ハンバーグの菜の花タルタルソースかけ」というのがありました。このタルタルソースに使うマヨネーズも手作りしていましたが、慣れてくれば作る時間は2分ほど。全く苦になりません。2017年春号でご紹介した細川亜衣さんのレシピを参考にさせてもらっていましたが、全卵を使うあっさりしたマヨネーズで、お客様にも好評でした。ちなみに使うのは、くせのない植物油150g、米酢大さじ2、塩小さじ1と1/2、和からし小さじ1、です。

 逆に「これはもう買ったがいい!」というものもあります。ウスターソースです。手間と時間が膨大にかかるわりには、なかなか美味しくなりません。それがわかると、たまに出くわす手作り系のウスターソースは、少々高くてもありがたく購入させていただきます。

 手作りは、気づきの母。気づきは、幸せと美味しさの源なのです。

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