堤防の上で
カンカンに焼けたコンクリートの上では、年齢不祥の女性がサビキでアジゴを釣っている。
慣れた手つきでアミカゴにマキエを詰めると、ドボンと海の中に落し込む。10秒もたたないうちに竿を上げると、10cmにも満たないようなアジの子供がバラバラと食い付いている。
彼女は無表情で氷の入っていないクーラーに魚を入れると、また同じ動作を繰り返す。
「よく釣れてるね」
「うん。今は潮がいいけんね」
分ったような事を言っている。
「ここにはよく来るの?」
「うん。毎日来とるよ」
「毎日!? もっと大きいアジはどこで釣れるんだろうね」
「ワタシはここでしか釣らんけん、わからん。ここのは小さいけん」
とにかく、給油をすることにした。堤防沿いに通りまで歩くと、すぐにガソリンスタンドが見つかった。ローリーをボートの所まで持ってきてもらうように依頼する。釣具屋を訪ねると、車で7~8分、歩くにはちょっと遠いとのこと。氷や撒き餌を買うとなるとちょっと辛い。
「乗せていきましょうか」
スタンドの女性が声を掛けてくれた。願ったり、叶ったりである。高橋さんが同乗してエサを買い出しに、こちらはボートでローリーが来るのを待つ事にした。
佐賀関の港は、亀の頭のような関崎半島の付け根の部分に位 置している。
この半島の先端部分の延長線上には四国の佐田岬がある。速吸瀬戸の中でも一番狭い場所で、潮の流れも大潮時だと6ノット近くにまで達する。関アジ、関サバの付加価値は、こんな海で育まれたものだ。
しかし、海図を調べてみると、本場関アジ・サバのポイントはえらく深い。150~200mはありそうだ。電動リールなどは用意していないので、そんな深場で釣るのは到底無理だ。
高橋さんが釣具屋で仕入れた情報だと、煙突の前あたりでも釣れるというので、まずはそこいらで試してみることにする。
岸壁を離れ、港を出る。GPS魚探のスイッチを入れてみて、アレ! スイッチが入らないのである。電源を調べてみるが、異常はない。おそらく激しく叩かれ続けたショックで、接触不良を起こしたのだろう。
GPSが使えないのは、今後の航海の事を考えても非常に痛い。それにも増して、魚探が使えないのはアジ釣りにとって致命的だ。
「魚探が壊れました」
「えっ、それってアジが釣れないって事?」
高橋さんが問い詰めるようにして聞いてくる。考えてみれば今回の航海中、GPSの機能はフル活用してきたが、魚探はまだまともに使っていない。ほとんど釣りをしていないのだ。それが本場、佐賀関に来たところで壊れるなんて、なんとついていないことか…。
仕方なく、何の根拠もなく無闇に移動しながら仕掛けを落としてみる。水深もわからず、底の形状もわからず、もちろん魚影もわからずである。
(つづく)

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