第4章 調味料に贅沢する

食べて幸せになる

美味しい料理を作る上で、食材も大事ですが、調味料も同じくらい大事です。こんな話があります。

憧れの料理研究家主催の料理教室に参加。先生の作る料理はどれも素晴らしく、一挙手一投足を見逃すものかとメモを取りまくり、動画も撮影。家に帰って完コピで料理するも、そのお味は「全然違〜う」。なぜでしょうか。

もちろん、ちょっとしたタイミング、混ぜ方、火加減など、料理は細かいファクターの積み上げで味が決まります。一度、料理教室に参加したからといって、長年先生が培ってきた細かいノウハウを全て習得できるはずがありません。

でも、それだけではないはずです。まず、食材が違います。そして、調味料が違うのです。完コピしたければ、まずは先生が使っていた調味料を全部チェックして、それを揃えるところから始めるべきでしょう。

世の中に溢れかえっているレシピの大半は、調味料に「塩」「しょうゆ」「酢」などとしか書かれていません。しかし、同じ塩でも精製塩なのか、釜炊塩なのか、天日塩なのか、あるいは岩塩なのかで味は変わります。もちろん、同じ釜炊塩でも商品の数だけ個性が存在します。

最も顕著なのが醤油でしょうか。一般的な本醸造しょうゆを想定してあるレシピを、九州などで好まれる甘いしょうゆで作ったら、明らかに甘すぎる料理になってしまいます。この場合、みりんや砂糖などの量を調整しないとレシピ通りの味にはならないのです。

では、どんな調味料を選べばいいのか。これが問題です。

「九州の食卓」の誌面でも、調味料については色々取り上げてきました。「塩や砂糖は、精製されていないものを」「抽出法ではなく、圧搾法で搾った油を」「丸大豆の本醸造醤油を」「静置発酵の酢を」「伝統製法で作られた無添加の調味料を」などなど。

そうなのです。確かにそうなのですが、長年これらを大上段に振りかざしていたら、振りかざしていた手がちょっと疲れた気がしました。基本的にこれらを選択するのは、その方が〝体にいいから〟という理由でした。でも、もっと別の選択の基準があるのではないかと。

行き着いたのは「作りの手の心意気で選ぶ」ということです。商品の裏のラベルに書かれた原材料表示も大切ですが、それ以上に作った人の思いに触れ、思いに寄り添いながら商品を選ぶことが〝食べて幸せになる〟という目的からすると、ストンと腑に落ちる感じがしたのです。言葉を変えれば、モノではなくヒトで選ぶということでしょうか。スペックではなく、スピリットです。

「心意気って何?」。そんな声が聞こえてきそうです。私が「九州の食卓」で取材して回った人たちは、生産者の方も含め異口同音にこう言っていました。

「だって体に悪いってわかっているものを作って、お客さんに売るわけにいかないでしょう」

これが心意気です。伝統製法や原材料にこだわればこだわるほど、手間と時間と経費がかかって生産効率と利益率が落ちます。それが分かっていて、あえてその選択をする。それが心意気です。その付加価値を上手に価格に反映させ、ビジネスとして成功している人もいますが、それはごくごく稀なケースです。真面目にやればやるほど儲からない、そんな人が多いのが現状です。

だから、そこに寄り添うのです。その商品を選ぶことが結果的に自分や家族の健康につながり、商品の継続につながり、伝統製法の維持・継承につながるのであればこんないいことはありません。

でも、「どうやって、その心意気とやらを知ればいいの?」。また、聞こえてきそうです。まずは、できるだけ近所の専門店を探して、聞いてみるのが手っ取り早いと思います。

「心意気のある人が作っているしょうゆ、教えてください?」

なんか面倒臭いのが来たなというような表情をされたら、その店は信用しない方がいいと思います。本来、心意気がある人がやっているお店は、心意気のある商品のことを話したくてウズウズしているはずなのです。そして、ここで大切なことが2つあります。「地元のものを選ぶ」ということと「自分の目で確かめる」ということです。

心意気を持って調味料を作っている人、会社は結構あります。お店でも「ここの味噌もいいけど、ここも熱いよ」とか言われるかもしれません。ましてやネット検索しようものなら、膨大な件数がヒットして何を基準に選んでいいか迷ってしまうはずです。

そんな時は、「地元」を優先しましょう。地元なら直接訪ねて、作っているところを見ることができるかもしれません。もしかすると、作っている人の話を聞けるかもしれません。フードマイレージ的なメリットもあります。そうです、行ってみましょう、訪ねてみましょう。そして確かめてみましょう、自分の目で。

「面倒くさ」と思ったアナタ。考えてみてください。毎日使う調味料って、何種類ありますか? しょうゆ、味噌、塩、砂糖、酒、みりん、酢、油。基本はそんなものです。砂糖とみりんは近くにないかもしれませんが、ほかはだいたい見つかるはずです。5〜6カ所を訪ねるだけです。自分がこれから一生食べ続けるかもしれない調味料について、自分の目で確かめる楽しい工場見学です。ダメ元でお願いしてみましょう。「心意気、見せてください」。

スペックで選んだ商品は、よりハイスペックなものに出会えば心移りします。でも、スピリッツで選んだ商品は、一生の友となると思うのです。

調味料に贅沢することは、間違いなくアナタの食卓を豊かにし、幸せにしてくれるはずです。

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