意を決して再出発
8日の午前10時、都井岬の気象情報を電話で聞いてみる。
覚悟は決めたものの、まだ未練はあったのである。
「天気は曇り、視界6キロ。波3m、うねり3m、南東の風6m」とアナウンスが流れた。風が落ちている。行けるかもしれない。都井岬は佐多岬と並ぶ難所。ここが乗り越えられれば、後は比較的楽になるだろう。
「出ましょう」
テントの中で高橋さんに結論を告げる。もう、高橋さんも出ればどういう状況が待っているかは体で想像できているはずだ。でも、先に進みたい気持ちは同じである。
「わかりました」
急いでチャートを広げ、目的の港を探す。どんなに急いでも出発は昼過ぎになりそうなので、走れても5時間。海の状況からして10~15ノットがせいぜいだろう。5時間で10ノットだと50マイル。
志布志から50マイル先には宮崎港があった。しかし、志布志湾を出て日向灘を北上、油津を過ぎるとしばらくは港らしい港がない。都井岬で無理だと判断したら、引っ返すつもりで出港の準備に取り掛かった。
12時45分、内之浦港を出港。北東に向い、都井岬の先端を目指す。志布志湾は南東に口を開けているので、うねりがそのまま入ってくる。真横から襲い掛かる比較的波長の長い波を、ジグザグに越えていく。
前方に薄らと都井岬が見えてきた。一瞬、武者震いが起きる。
「行きますよ」
高橋さんが黙って頷く。
頭に巻いた鉢巻きを締め直し、大きく息をついた。
(つづく)




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