またまた、長期滞在
暴風雨はいつも夜、である。
目が覚めるとテントが大きく湾曲し、今にも崩壊しそうである。下がコンクリートなのでペグが打てず、テントはスピンを張ったヨット化し、ズルズルと風下へ移動している。
賢明に体で押さえようとするが風上から加わる力は物凄い。このままではテントもろとも吹っ飛ばされると、外に置いておいたクーラーを運び込んで四隅にオモシ代わりに据えてみる。
時計を見ると、午前2時。雨もひどくなったようで、コンクリートとテントの間をビチャビチャと流れていく。
まだ相変わらずテントは変型したままだが、不安よりも眠気が勝り、自分の寝息が聞こえるくらいのスピードで眠りに落ちる。
ドドドドッ、という大型船のディーゼルエンジンの音で目が覚めた。テントの外は明るくなっている。風はおさまったようだ。外へ出ると、雨も上がっていた。
目の前の岸壁には30トンくらいの漁船が止まっていた。網を降ろす作業が行われている。
「このボート邪魔ですか」
休憩中だと思われる乗組員の人に声をかける。漁船の前には我がボストンホエラーが心細そうにゆらゆら揺れているのである。
「別に」
愛想がない。でも、田舎の人特有のはにかみだと判断し、台風情報を聞き出そうとすると、ポツポツ話し始めてくれた。
屋久島周辺で漁をしていたのだが、台風の接近で逃げ帰ってきたのだそうだ。
「船が折れるか、思うた。明日の夜あたりかな、ゴッツイのが来るぞ」
「明後日も無理でしょうね」
「ハハハ、当たり前じゃ。無理すりゃ、死ぬぞ」
「……」
また、長期滞在である。
外は、出れば死ぬ海、である。
(つづく)



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